聖書＝イザヤ書９章３－５節
彼らの負う軛、肩を打つ杖、虐げる者の鞭を／あなたはミディアンの日のように／折ってくださった。地を踏み鳴らした兵士の靴／血にまみれた軍服はことごとく／火に投げ込まれ、焼き尽くされた。ひとりのみどりごがわたしたちのために生まれた。ひとりの男の子がわたしたちに与えられた。権威が彼の肩にある。その名は、「驚くべき指導者、力ある神／永遠の父、平和の君」と唱えられる。
今週から「アドベント」（待降節）に入りました。メッセージの主題を「その名は平和の君」としました。今日、世界で最も求められているのが「平和であること」ではないでしょうか。しかし、なかなか平和が到来しません。コロナ禍の中でも、世界の各地で戦乱と殺し合い、テロが相次いでいます。イスラエルとアラブ諸国との緊張は続いています。
それだけではありません。７５年間、戦争をしなかったため平和国家と言われてきた日本も、戦争ができる国造りへと進んできています。イージス艦を多数導入し、軽空母を造り、いつでも核兵器製造に取り組めるようにプルトニュームを蓄積しています。憲法９条など無視されてきたと言っていいでしょう。やがて、この国は再び、戦いへの道を歩むことになるのではないかと恐れています。
上記の旧約聖書・イザヤ書が記された時代、ユダの地は戦乱の中にありました。預言者イザヤは紀元前７００年代の人です。イザヤは平和を切望していた預言者だと言っていいでしょう。イザヤはその時々の権力者たちに平和を期待したのですが、裏切られ続けました。パレスチナという地域は繰り返し外国の侵略対象になりました。男たちは戦いで殺され、女は奴隷にされ、家族はバラバラになり、孤児は飢餓で死んでいく。このような辛いことの連続でした。
しかしなお、イザヤは諦めず、「まことの平和」を実現するメシア・救い主の到来に期待したのです。現実に失望し、将来に希望を託したのです。神がおいでになって本当の平和が来ると期待したのです。「ひとりのみどりごがわたしたちのために生まれた。ひとりの男の子がわたしたちに与えられた」と、イザヤは預言の言葉を語ります。
「一人のみどりご」が誕生し、その子が「驚くべき指導者、力ある神、永遠の父、平和の君と唱えられる」と語ります。これらの言葉は、「一人のみどりご」の果たす働きです。なによりも「一人のみどりご」は「平和の君」と呼ばれます。やがて来るメシア・救い主の働きとその呼び名として「平和の君」という名前はまことにふさわしいと言えるでしょう。「平和の君」とは、平和をもたらせる神の支配です。
ここで語られている平和は、決して「戦争のない状態」だけのことではありません。平和と訳された言葉は「シャローム」です。「シャローム」という言葉は、今日もイスラエルではあいさつとして用いられています。「おはよう、こんにちは」です。毎日、毎日、平和を待望してきたと言えるでしょう。預言者イザヤが「一人のみどりごが生まれた。その名は平和の君と唱えられる」と語ったのは、その時代、平和が全く失われていたからです。闇の中、死の陰に住んでいたと言われています。その中で、イザヤはやがて「平和の君」が来ると希望を語ったのです。
イザヤは、「生まれた」、「与えられた」と過去形で語っています。それは、この救い主の誕生が確かなことだという「確信」からの言葉です。イエス・キリストの誕生は、このように長い間、待ち望まれてきたと言っていいでしょう。この預言されてきた「一人のみどりご」が誕生した。これこそクリスマスの出来事です。イザヤの語ったことがイエス・キリストの誕生において成就したのです。
「シャローム」は、豊かな実体を持つ言葉です。シャローム（平和）という言葉には、健康、健やかさ、平安、穏やかさ、安全などの、人が生きる中で欠かすことの出来ない「安らぎのすべて」が満たされた状態が意味されています。
地上のすべての争いの根源は、人間の罪深さに由来しています。人間の原罪、飽くなき欲望、支配欲などです。これらの罪と悪徳が取り除かれ、人の心の中の深い傷がいやされるのでなければ、地上の争いはなくならないでしょう。これらの罪と悪徳が取り除かれ、傷がいやされるためには、神とのシャローム、神との和解以外ありません。平和の君が、わたしたちの心の中に入り、心を支配していただくことです。「一人のみどりご」は、わたしたちの心に入り、心の奥に巣くっているすべての罪に解決と赦しを与えて、わたしたちを神の御前に立たせてくださるのです。そこにまことの平和・シャロームがあるのです。
イザヤの告げる「一人のみどりご」は、このシャロームを与えるために世に来られ、わたしたちの罪を背負い、十字架を担われました。このお方のところに本当のシャローム、神との和解があります。このお方の元で、人は欲望や支配欲から解放されて、健康、健やかさ、平安、穏やかさ、安全、健全さなどの欠けることのない満たされた状態、神の祝福の恵みの中に導き入れられるのです。すべての人の心の中に、まことのシャロームが形成される時、世界に平和が確立するのです。その時を祈り求めてまいりましょう。